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ソニーのDNAを受け継ぐ職人たち Vol.2 “スピーカーを頭に装着する”という発想 スピーカー職人 山岸 亮(やまぎし まこと) スピーカー設計担当

2007年10月。ひとつのスピーカーが発売された。それは“スピーカーを頭に装着する”というまったく新しいスタイルだった。パーソナルフィールドスピーカー「PFR-V1」と名付けられたこの斬新なスピーカーはひとりの開発者のひらめきから誕生した。ヘッドホン・スピーカーの開発、設計に長く携わり、良質の“音”にこだわり続け、これまでも多くの製品を手がけてきたスピーカー職人・山岸亮。「世の中にない新しいものを作りたい」その思いがひらめきを導き、新たなプロダクトを生み出すのである。

“音”への探究心が自分の性格を変えた

中学生の頃からオーディオの世界に興味を持ち始めたスピーカー職人・山岸。
音楽よりも“音”の魅力に惹きつけられたという彼は、ソニーに入社してからも“音”にこだわり続け、「SRS-N100」「SRS-T1」「SRS-GS70」、そして「PFR-V1」などユニークなスピーカーを手がけてきた。
そんな山岸だが、実は昔から機械をいじることは苦手だったという。

中学時代の友達がオーディオにハマっていて、彼がいろいろと薦めてくれたのがオーディオに興味を持ち始めたきっかけです。最初に買ったLPも、彼が薦めてくれました。  最初に買ったLPをあらためて聴いてみると、60Hz以下の低音が入っていたり、ベルが鳴ったりと、かなり鮮烈な“音”が入っていて、そういうところにも惹かれました。音楽よりも“音”への興味が強かったんでしょうね。

高校生の頃は、オーディオ評論家の自作用スピーカーの設計図を見ながら、自分なりにアレンジしてオリジナルスピーカーを製作したりしていました。ただ昔から機械をいじるのは苦手で、プラスチックモデルキットも途中で飽きてしまい、最後まで作れたことがないんです。でも、オーディオは投げ出さずに続けられました。今でも不思議なのですが、自分の性格を変えてしまうほど、音に対しての興味が強かったんだと思います。

  • <SRS-N100>
  • <SRS-T1>
  • <SRS-GS70 >

将来の夢は“エンジニアになること”

大学に入学した山岸は、アルバイトや自主制作映画への参加で、さらに深く“音”の世界へと入り込んでいく。

オーディオ機器が好きだったので大学では電機学科を専攻したのですが、機械いじりが苦手なのは変わっていなくて、いろいろと苦労しました。まぁ今でも苦手なんですが(笑)。

大学生になって始めたアルバイトでは、稼いだお金のほとんどをオーディオ機器の購入に費やしていました。しかも働いていたのが家電量販店で、そのお店でほとんど商品を買っていたんです。お店にとってはいいお客さんだったと思いますよ。また、学生たちで作る自主映画にも音楽・音響担当として参加して、効果音の録音やシーンにあった音楽を選曲するなど、まさに“音”漬けの毎日でした。

そんな山岸がソニーに入るきかっけになったのは、就職課にいた担当者のひと言だった。

そうこうしているうちに就職活動の時期を迎え、どうしようかなと考えていると、就職課にいた担当者に「あなたはソニー向きだと思う」と言われたんです。
その頃のソニーはというと、ちょうどウォークマンが世間に広まってきた時期。それまで自分もそれなりにお金をかけてオーディオ機器を揃えていたつもりなのですが、ウォークマンは、安くはないとはいえ3万円台で買えて、しかもコンパクト。それなのにすごく音がいい。当時、とても衝撃を受けました。その印象は今でも覚えています。

実は私が最初に買ったオーディオ機器が、ソニーの開発したSQ4と呼ばれるマトリクス4チャンネル方式のモジュラー・ステレオだったんです。実は中学時代の友達の家にあったのが、CD-4と呼ばれるディスクリート4チャンネル方式のシステムで、その音を最初に聴いたとき、“後ろのスピーカーからも音が出る!”ってビックリしました。まさに音に囲まれる感覚で、その定位感が忘れられなくて、自分も最初から4チャンネルで音を出してみたいという思いがあったんです。初めて買うものにしてはマニアックな選択でしたけどね。
またソニーにはトリニトロンなど、新しい技術、製品を生み出す会社というイメージもあり、ボーナスも高かった(笑)。それならば受けてみようと。
今思うと、自分の何がソニー向きだったのか分からないんですが、就職課の担当者のひと言が、その後の人生を決めたと言ってもいいかもしれません。

いきなりの大発明! それは偶然のなせる技!?

ソニーに入社した山岸は、スピーカーを開発している部署ではなくヘッドホンチームに配属された。そこで「MDR-E252」というインナーイヤー型のヘッドホンを担当するのだが、いきなり特許を出願するほどの発明へつながる事となる。

本当はスピーカーを作りたかったのですが、配属先がヘッドホンチームということでちょっとがっかりしました(笑)。でも決まったからには自分なりにいろいろとやってみようと。

まず1年半ぐらいは研修や勉強をしまして、最初に担当したのが「MDR-E252」というインナーイヤー型イヤレシーバー、「N・U・D・E」シリーズの第1号機でした。先輩の指導を受けながら設計を担当したのですが、先輩たちに教わってやることとは別に、自分で考えながら改造したりもしました。その自分なりにやっていた部分で、今までにないものができてしまったんです。

<MDR-E262>

それがヘッドホンのターボ回路。これはヘッドホンの筐体から伸びているパイプの部分なのですが、この機構があるとものすごい低音が出るんです。実は「MDR-E252」を、防滴・防水型にしようと改造していました。そこで防滴にするのであればヘッドからパイプを伸ばして、その先に空気室を取り付けたらいいのでは? ということで設計してみたのですが、これが全然ダメ。でも、その空気室を取ってみたら低音がすごくよく出るようになったんです。

この回路を積んだヘッドホンはその後「MDR-E262」として発売され爆発的なヒットモデルとなりました。今までのモデルと比べると、10dB(デシベル)から20dBぐらい違う。音が比較にならないぐらい聴こえやすくなりますし、低音も高音もよくなる。自分で言うのもなんですが機構そのものが画期的で、社内外を含め皆さん驚いたと思います。社内でも当時のよその部の部長が「こういうものができたんだぞ」って、私の作った技術を私に自慢していたぐらいでしたから(笑)。

ただ、このターボ回路は理論的に考えたものではなく、設計している段階でたまたまできたもの、偶然の産物なんです。そのため機構ができてから、なんで低音がよく出るのだろうかを考えて、特許を出願しました。

入社して初めて手がけた製品でいきなり大成功を収めた山岸は、「MDR-E484」などいくつかのヘッドホンを手がけたあと、スピーカー開発へと移ることになる。

「面白いことは上司に隠れてやれ。ダメだったら葬ってしまえ」と、元・副社長の大曽根も言っているのですが、決められた仕事だけではなく、何か面白いことをやろうという社風がソニーにはあります。ターボ回路もそういう社風がなければ、生まれてこなかったかもしれません。

私がヘッドホンの部署からスピーカーの部署に移ったのも、ヘッドホンの開発をしている傍ら勝手にスピーカーを作っていたら、上司が「じゃあスピーカーチームに移るか」と言ってくれたからなんです。

常に“理想の音”を目指してスピーカーを作り続けてきた

念願のスピーカーチームへと移った山岸は「SRS-N100」「SRS-T1」「SRS-GS70」「SRS-Z1」、そして「PFR-V1」などユニークなスピーカーを次々と手がけ、社内では一目置かれる存在となる。

スピーカーチームに移ってからは、いろいろなモデルを手がけてきました。「ゴルフクラブのカーボンシャフトの先にスピーカーが付いているのは面白いのではないか?」という発想から作り上げた「SRS-N100」。これは、あるオーディオ評論家の方との交流から生まれました。また「SRS-GS70」は、音とバイブレーションを体感できるビデオゲーム用のスピーカーとして肩乗せタイプに。「SRS-Z1」は、不要な音の反射を抑えて実在感ある音を実現するため、スピーカーキャビネットを小型化し、さらにフローティングスタイルにしてみました。こうして振り返ると、その用途もデザインもさまざまです。

山岸が作り出すスピーカーたちは、個性的なデザインをしているものが多い。それは理想の音を追求した結果であり、そこには“常に理想の音を目指す”という山岸の強い思いが込められていた。

よく「変わったデザインのスピーカーを設計しますね」と言われるのですが、特に意識しているわけではなく、どれもその製品で“理想の音”を目指した結果なんです。
これは音響の本などにも書かれているのですが、“理想の音”というのは、小型の球体で伸び縮みしながら音を出す呼吸球と呼ばれるものなんです。今の技術では完璧な呼吸球を作り出すことはできませんが、何が理想なのかということを常に忘れないで設計することが大切だと思います。

また製品を設計する上で“知らないことは武器になる”とも思っています。分かっている人ならばやらないようなことをやる、そこに新たな発見があるかもしれない。
これは私の経験則なのですが、教科書や今までの定説などは意外と間違っていることもある。ただ絶対に間違ってないことがあって、そこは変えられませんが、音響分野には物理の法則内でまだまだ新しい発見やアイデアは有るはずだと思っています。

そういう意味でも部下たちには、固定概念にとらわれずとりあえず作ってみることが大切とアドバイスしています。作ってみて初めてダメかどうか見極めたほうがいい。もしかしたら作ったものを少しだけ変えたら、よりよいものに仕上がるかもしれない。
「MDR-E262」のときも、当初の目的である防滴・防水型を作ってみたけれどダメで、分解している途中にターボ回路ができてしまった。

さらに言うと、防滴型でスポーツタイプのヘッドホンという、今までにないものを作ろうとして生まれたものなんです。今までの製品をちょっとよくしようというのでは、誕生しなかったものだと思います。

もちろん理論的に考えて生まれてくるものもありますが、確率は低いけれどいろいろ作ってみる、その過程が重要なんです。失敗しても何らかの経験にはなりますから。
特に私の場合は最初に成功しているので、また大当たりがあるのではないかと余計に思ってしまう。偶然ほど恐ろしいものはないですね(笑)。

夢は、今までにないスピーカーを作り出すこと

“理想の音”を求めスピーカーを作り続けてきた山岸は、“スピーカーを頭に装着する”というまったく新しい装着スタイルのパーソナルフィールドスピーカー「PFR-V1」を生み出す。それは「MDR-E262」と同じように、偶然から生み出されたものだった。

入社した頃から、スピーカーを頭の先に置くと音の広がりがよくなる、ということが研究されていました。ただ低音を出すためには本体が非常に大きくなり、どうしても重くなってしまう。また耳元や頭の先にスピーカーを乗せられても、本体が重いと重心が悪く安定しない。そういった理由で、なかなか理想の形にはなりませんでした。

それから十数年経った2005年の11月に、ふとひらめいたんです。私の部署で開発した「SRS-AX10」のスピーカーに、ストローのようなダクトを付ければ、軽量でしかも低音が出るものが作れるんじゃないかって。

すぐに食堂にある自動販売機からストローを1本持ってきて、スピーカーに刺してみました。その瞬間、これはイケる! と。それが「PFR-V1」を開発するきっかけです。

そう考えると「PFR-V1」は、構想十数年。低音を出すためのアイデアは30分で完成した製品なんですよ。また偶然、大当たりしたみたいなものです(笑)。

あくまで偶然だと謙遜する山岸だが、そこに至るまでさまざまな製品を生み出し、経験を積んできた彼だからこそ、そのアイデアを思いつくことができたのだろう。 1本のストローによって、十数年想い描いていたスピーカーを現実のものとした山岸だが、理想のスピーカー、理想の音への探究心はいまだ失われていない。

スピーカーはまだまだ可能性が広がるカテゴリーだと思います。例えばスピーカーやヘッドホンで究極のものを作ってしまうと、あとはその製品をいかに安く作るかというだけになり、趣味性がなくなってしまう。でも、音響というカテゴリーにはそうならない面白さがある。各社がいろいろなアイデアを出し、製品を作っているところが面白くて、ユーザーの方もそこに趣味性を感じていただいていると思います。

今後の課題としては、今までにない新しい“場所”を見つけることです。「PFR-V1」は、ソニーならではのスピーカーですが、スピーカーでもヘッドホンでもない、もしかしたら「PFR-V1」でもないものがあるかもしれない。今までにないスピーカーの形というのが当然あると思いますし、自分としても世の中にないもの、ユーザーの方がアッと驚くようなものを作りたいと思っています。そしてそれを実現できる土壌がソニーにはあります。

学生時代、それを見越して「あなたはソニー向きじゃないか」と言ってくれたのなら、すごいですね(笑)。

パーソナルフィールドスピーカーシステム

山岸 亮のスピーカーの選び方

私がスピーカーを選ぶときは、まずキャビネットを軽く叩いてみて、いい響きがするかどうかを確かめます。次に振動板をそっと触って感触を確かめます。あとは大きさやデザインなど趣味趣向に合わせてという感じです。

ただ一番重要なのは、自分が聴いていいと思うものを選ぶこと。自分がいいと思わなければ、聴いていてもつまらない。同じ会社の製品で同じシリーズのスピーカーであっても、スピーカーを設計した人間が違えば、音も変わってきます。もし可能であれば専門店やAVフェスタなどのイベントに、自分がいつも聞いているCDなどを持っていってじっくり聴き比べる。そうやってお気に入りのスピーカーを探すのがいいと思います。

<PFR-V1>
山岸が開発したPFR-V1。頭にかける新スタイルのスピーカーで、奥行きのあるハイクオリティーサウンドを実現。装着者のパーソナルフィールドを包み込む。
>>オフィシャルサイト

ソニー株式会社
オーディオ事業本部 第3ビジネス部門 1部
担当部長
山岸 亮

1959年生まれ。ソニーに入社後、最初に手がけたインナーイヤー型ヘッドホンを商品化中にターボ回路を発明し、その後「MDR-E262」で採用され商品化。その後スピーカー部門に移り、「SRS-N100」「SRS-T1」「SRS-GS70」「PFR-V1」などさまざまなスピーカーを手がける。

My Sonyメールマガジン 2008年6月19日号